カザルス ゼルキン ベートーヴェン チェロ・ソナタ第3番ほか(1953.5Live)

カザルスのヴィブラートは、音楽をつくり上げてゆく弓の働きにいつも順応したが、けっして差し出ることはなかった。そのヴィブラートはフォルテに激しい情熱をまとわせるが、それでいて音が自由に舞い上がる力を侵害することはない。
デイヴィッド・ブルーム著/為本章子訳「カザルス」(音楽之友社)P143

パブロ・カザルスの音楽は中庸の内にあったのだろうと思った。
足りぬことなく、また過ぎることもなく。

それでいて喜びの発揚は人一倍。得も言われぬ感動を録音から喚起するのだから、実演ならなおさら。

ベートーヴェン―なんという語だろう—単なるシラブルが深い響きをもち、永遠を象徴する指輪となる。

カザルスのベートーヴェンを聴いて、ロベルト・シューマンのこの言葉を思い起こす人がいる。何とも比喩的な言だが、カザルスのベートーヴェンは、交響曲にせよ室内楽せよ、まさに永遠を刻む不滅の演奏だ。

ベートーヴェン:
・チェロ・ソナタ第3番イ長調作品69
・チェロ・ソナタ第4番ハ長調作品102-1
パブロ・カザルス(チェロ)
ルドルフ・ゼルキン(ピアノ)(1953.5.18&19Live)

随所に聞える唸り声。
音楽から気がほとばしる。外へ、外へと開放的な第3番イ長調第1楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポは、ベートーヴェンの勇気。第2楽章スケルツォが弾ける。何とも軽やかだが、意味深い。そして、終楽章アダージョ・カンタービレ―アレグロ・ヴィヴァーチェの慈しみ。

ここではカザルスは第2主題に特別のゆとりを与え、やさしさを損なわないようにするのが必要だと感じた。チェロで弾かれるフレーズはいずれも「あなたを愛している」と語りかけねばならぬ、とカザルスは説明した。
~同上書P103

パブロ・カザルスの博愛は、ベートーヴェンのそれに通ずるのだと思う。世界が一つであれと願う心がある。何て優しい音楽。

第4番ハ長調第1楽章アンダンテの沈思黙考、アレグロ・ヴィヴァーチェに移るや音楽は陽に転じる。同じく第2楽章もアダージョのパートからアレグロ・ヴィヴァーチェに移りゆく陰陽の機微。もはや耳が聞こえなくなったベートーヴェンが、心の耳で二元世界と対話する様子をカザルスは丁寧に音化する。

フランスはプラド音楽祭の記録。

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