ネーメ・ヤルヴィ指揮バイエルン放送響 グラズノフ 交響曲第8番(1983.12録音)ほか

アレクサンドル・グラズノフの音楽的神童ぶりは並大抵でなかったという。
グラズノフは、こと音楽にかけては尋常でないバイタリティを他に見せつけた。次のようなエピソードがある。

ところがグラズノフは、たとえば、ヴァイオリン協奏曲を作曲するにあたって、ヴァイオリンを弾けるようになろうとレッスンを受けた。まさしく英雄的行為である。
グラズノフがたくさんの吹奏楽器を演奏していたのは、わたし自身も知っている。たとえば、クラリネット。
いつでも、わたしはこの話を教え子たちに話して聞かせている。あるとき、グラズノフは自分の作品を指揮するためにイギリスに行った。誰もが知っているように、彼は指揮の仕事を熱烈に愛していた。
イギリスのオーケストラ員は彼のことを愚弄するようにくすくす笑いだした。グラズノフのことを野蛮人だ、きっと無学な人間だ、と思っていたのだろう。公然たるサボタージュがはじまった。
練習のときに指揮者に従わなくなったオーケストラほど恐ろしいものはない。よく言われることだが、このようなことは敵にも望まない。
フレンチホルン奏者が立ちあがって、このような音を演奏することはできない、なぜなら、まったく演奏不可能なのだから、と言いだす。オーケストラ員は一斉に彼を支持する。
もしもわたしがグラズノフの立場にあったら、どう振舞うだろうか。わからない。おそらく、練習をやめて、帰ってしまったことだろう。
だが、グラズノフはこのように振舞った。彼はなにも言わずにフレンチホルン奏者のそばに歩み寄り、彼の手から楽器を取りあげた。あっけにとられたフレンチホルン奏者はなにも抵抗しなかった。
それから、グラズノフはかなり長いこと、いろいろと試みてみた。そしてついに、フレンチホルンで必要な音を出した。イギリス人のフレンチホルン奏者が演奏不可能といっていたまさにその音を出したのだった。
オーケストラ員は拍手を送りはじめた。抵抗はついえた。練習をつづけることができた。

ソロモン・ヴォルコフ編/水野忠夫訳「ショスタコーヴィチの証言」(中公文庫)P142-143

信用を勝ち得るには、何でも自分がやってみせることだ。
そして、何でもできるまで徹底的に続ける根気を持つことだ(同時に結果を得ることが大切)。ショスタコーヴィチはかく回想する。

グラズノフは好んでくり返していた。「素人のほうがどんな専門家よりもよく演奏するだろう」。そして、ちょっと考えてから、つけ加えるのだった。「素人が演奏できるとしたらの話だが」。
~同上書P143

名言だ。
アレクサンドル・グラズノフ、最後の交響曲。神童と呼ばれた作曲家の、円熟期の作品は実に温かい。

グラズノフ:
・交響曲第8番変ホ長調作品83(1905-06)(1983.12.19-22録音)
・祝典序曲作品73(1900)(1983.2.28録音)
・結婚行進曲作品21(1889)(1983.12.19-22録音)
ネーメ・ヤルヴィ指揮バイエルン放送交響楽団

渾身の交響曲第8番。ロシア的憂愁と西洋音楽のイディオムを見事に折衷した大交響曲。第1楽章アレグロ・モデラートの勇壮な主題の解放よ。内容はまるでブラームスのようだ。第2交響曲や第3交響曲の楽想が随所に木魂する。あるいは、いかにも暗澹たるロシアの未来を予言するかのような重く激しい第2楽章メストの精神性(ヤルヴィの思い入れたっぷりの指揮が素晴らしい)。そして、軽快でありながらどこか深刻な第3楽章アレグロを経て、第1楽章の回想含め、楽想が一層明朗かつ柔和になる終楽章モデラート・ソステヌート—アレグロ・モデラートの美しい響きよ(クライマックスに向かう高揚感)。

ところで、初期の傑作「結婚行進曲」についても、主題がいかにもブラームス的で興味深い。優雅というよりむしろ雄渾な響きがグラズノフの粋。

よく知られているように、作曲をするとき、グラズノフはピアノに向かわなかった。そのことでは、例外ながら、わたしと彼とは意見が一致する。わたしは音楽作品のことを考えているのである。
グラズノフもやはり、無数の会議のあいだに音楽の構想が浮かんでくるのに苦しまなければならなかった。おおむね、わたしの知り合いの、いまでは「創造的活動家」と呼ばれている多くの人々が、さまざまな楽想や思いつきが頭に浮かぶのは、ほかならぬ会議のときだったとこぼしていた。
何百という、あるいは何千にもなるかもしれぬ会議に出席した人間として、わたしはそういう人の意見を喜んで信じたいと思う。たぶん、会議の庇護者ともいうべき特別な美神が存在するのだろう。

~同上書P140-141

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