シェリング クーベリック指揮バイエルン放送響 ベルク ヴァイオリン協奏曲(1968.5録音)ほか

アルバン・ベルクの懺悔の音楽だとは、我ながらよく書いたものだ。
ヘンリク・シェリングの演奏には、実に官能がある。音の色艶が半端なく、音楽そのものが第1楽章冒頭から第2楽章の最後の音に至るまで途切れず生々しい。

ルイス・クラスナーからの依頼に当初はあまり乗り気でなかったベルクに、アルマ・マーラー=ヴェルフェルと前夫グロピウスとの娘マノンが死去するという報が入った。そこでベルクは「ルル」の作曲を中断し、ヴァイオリン協奏曲の作曲に本腰を入れるようになったという。

きっとあなたが驚かれるよりも、私の方がもっと驚いています。とはいえ私はこれまでになく勤勉でしたし、没頭すればするほど喜びを感じていました。私はこの作品の成功を、希望するというより確信しています。
(1935年7月16日付、ベルクよりクラスナー宛)
田代櫂著「アルバン・ベルク―地獄のアリア」(春秋社)P323

鎮魂の、静寂の音楽は、時に轟音を上げるも透明感はまったく失われない。シェリングのヴァイオリン独奏はもちろんのこと、クーベリックの棒も実に官能の思念を追随しており、完璧に一体となって当時のベルクの悲哀の念を歌いきっている。

・ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」(1935)(1968.5録音)
・マルティノン:ヴァイオリン協奏曲第2番作品51(1963)(1969.12録音)
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団

シェリングのために書かれたジャン・マルティノンのヴァイオリン協奏曲第2番が素晴らしい。無調作品ながら難解さはなく、第1楽章アレグロ・ソステヌートからソリストの真摯な演奏を得て、音楽は堂々と飛翔する。ジャケットのシェリングは青空の下で何を思うのか、遠くに視線を置き佇むが、その無心の表情が、ベルクやマルティノンの作品に対する彼の思念を表しているようにも思われる。第2楽章アンダンティーノ—アダージョにおける独奏ヴァイオリンとフルートにはじまる木管との掛け合いのシーンが幻想的で、どこか武満徹を思わせる浮遊感に富み、美しい。そして、終楽章ヴィヴァーチェは、文字通り活気に溢れ、外へと向かうパッションが弾け、シェリングのヴァイオリンがうねる。
※DGの冠ロゴ中の“STEREO”の文字が抜けているのは誤植だろうか。

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