スミス デュトワ指揮フィルハーモニア管 テオドラキス フルート、弦楽合奏と打楽器のためのアダージョ(2004.2録音)ほか 

独学で作曲の勉強をした吉松隆さんが、音楽の魅力を一言で言うと「和声」だとおっしゃっていた。和音の連結、その巧みな構築によって、音楽に独自の音調、すなわち悲しみや恐怖や喜びや、あらゆる感情や雰囲気をいうものを生み出すことができる、その不思議な魅力に10代のとき憑りつかれたのだという。なるほど、確かに音楽の魅力とは、人の心に影響を与える和声にあるのだろうと思った。

シャルル・デュトワのDeccaボックスの最後の1枚は、先年96歳で亡くなったギリシャの作曲家ミキス・テオドラキスの作品集。彼の音楽は(調性に背を向けることを是とした)現代の音楽とは思えないメロディとハーモニーに溢れ、美しく、何より映画音楽さながら人々の心を感化する力に充ちている。

そういえば吉松さんは、調性を順守するとドイツ風、イタリア風、ロシア風など、作曲家の個性が音楽に投影され、多くの場合聴くだけでそれが誰の(どこの国の)作品であるのか想像がつきやすいというようなこともおっしゃられていたように思う。
その意味で、テオドラキスの音楽は果たしてギリシャ風と言えるのかどうなのか、僕には見当がつかないけれど、少なくとも南国風ではなく、もっと北方の、ともするとロシア的な感傷に満ちた音楽に聴こえるのである。

テオドラキス:
・フルート、弦楽合奏と打楽器のためのアダージョ(1993)
ケネス・スミス(フルート)
シャルル・デュトワ指揮フィルハーモニア管弦楽団(2004.2録音)
・「その男ゾルバ」バレエ組曲(抜粋)(1976)
イオアナ・フォルティ(メゾソプラノ)
モントリオール交響室内合唱団
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(2000.10録音)
・バレエ組曲「謝肉祭」から3つの小品(1953)
シャルル・デュトワ指揮フィルハーモニア管弦楽団(2004.2録音)

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の犠牲者に捧げられたアダージョの美しさ。
そして、どうにも田舎臭い印象の音楽を持つ「その男ゾルバ」によるバレエ組曲こそギリシャ風と言えるのか、などと空想しながら僕はこの平易な、とっつきやすい音楽を聴く。

ここで、エンニオ・モリコーネが語った言葉を思い出す。

生命の誕生から死まで、人生のなかでもっとも大事な瞬間や、ほかにも軍隊や宗教の文脈でも、音楽は人間が感じることを感覚的、外面的、そして何よりも内的に明らかにすることによって、人間の価値を高め、様々な文脈におけるもっとも大事な瞬間を賛美する。音楽と人間の感情のこうした関連性は、現代でも視覚的なイメージと一緒に用いられる音楽でよくみられる。
エンニオ・モリコーネ/アレッサンドロ・デ・ローザ著 石田聖子/岡部源蔵訳 小沼純一解説「あの音を求めて モリコーネ、音楽・映画・人生を語る」(フィルムアート社)P243

どういう情景を描こうと、一般的に音楽とは人間の感情そのものなんだと僕は思う。

Nuovo Cinema Paradiso by Ennio Morricone

ところで、先般、バート・バカラックが亡くなった。享年94。
バカラックの音楽も多種多様で、聴く者の心の琴線に触れる逸品たちだ。

B.J.Thomas Raindrops Keep Falling on my Head

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