1973年のレニングラード・フィルハーモニーでのリハーサル風景だという。
ブラームスの交響曲第4番ホ短調作品98の終楽章パッサカリア。厳しい、執拗な(?)リハーサルだけれど、みるみる音楽が醸成されていく様子に感動する。
ドキュメントでは交響曲第2番ニ長調作品73とされるが、間違いではないのか?
1973年4月末のコンサートのためのリハーサルならば、ベートーヴェンの第4番とブラームスの第4番がプログラムだったはずだから。
ゾロトフはカメラマンと技術スタッフから成るフル・チームを連れ、ムラヴィンスキーのベートーヴェンの交響曲第4番の通しリハーサルを観察し始めた。セッションが始まる前に、指揮者はゾロトフに、試験的な撮影が邪魔になったらクルーを引き揚げることを、彼の幼い娘オリガの面前で誓わせた。ゾロトフはムラヴィンスキーの要求に従順に従い、カメラのスイッチを切って静かに坐っているようにクルーに伝えた。こうしたので、彼らが邪魔になるはずはなかった。休憩後、ムラヴィンスキーは撮影している時はいつもこのように静かなのかとゾロトフに尋ねた。ほどほどに満足して、レニングラードの巨匠は、クルーがこのリハーサルと、その週後半のブラームスの交響曲第2番のコンサートをテープに収めることを許可した。
~ グレゴール・タシー著/天羽健三訳「ムラヴィンスキー高貴なる指揮者」(アルファベータ)P297
モスクワの音楽学者アンドレイ・ゾロトフとの協同作業によるプロジェクトは、映像を観る限り大成功だったことがわかる(果たしてこの映像がそのときのものならばだけれど)。
ちなみに、ゾロトフが招集をかけたプロジェクト・メンバーにはタルコフスキーとも仕事をしていた輩もいたというのだからさすがだ。
アンドレイ・ゾロトフは自分のプロジェクトに、最高のカメラマンと技術スタッフの何人かを集めた。チーフ・カメラマンはグリーゴリー・レールベルクで、彼は1960年代から1970年代のアンドレイ・タルコフスキーの芸術映画『アンドレイ・ルブリョフ』『惑星ソラリス』『鏡』の仕事をしていた。彼のカメラワークは非常に詩的で芸術に忠実で、フィルハーモニー大ホールの美しさ、歴史と伝統を捉えている。インテリアの気品ある建築様式、心を奪われた子供や大人の聴衆の顔に注ぐ光の陰、そこには映像と音響の不思議な世界を解きほぐすものがあった。音響技師はメロディアが誇るゲルハルト・ツェスとセミョン・シュガルで、二人ともこの会場の音響特性をよく知っていた。ゾロトフがとった「密かに観察する方法」は、不動の彫像のような番人—真の貴族の心を持つ温かい繊細な強い音楽家にして、この敬虔な指揮する人物を、独特な個性の持ち主として表わしていた。
~ 同上書P297-298
・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98から終楽章パッサカリア
—リハーサルとインタヴュー(Youtube)
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1973.4収録)
もの凄い気迫とエネルギー。
ブラームス渾身の名作が、たった今生まれ出づるが如くの生命力。
エフゲニー・ムラヴィンスキーの神がかり的リハーサルに感服する。