メニューイン フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管 ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61(1953.4.7-8録音)

戦後もフルトヴェングラーを擁護し続けたメニューインの言葉には慈しみが宿る。
そして、彼の演奏にも同様に慈愛を感じる。
何と優しい音楽であることか。

フルトヴェングラーは清廉潔白な人で、素晴らしい人でした。
今日は、彼の素晴らしい音楽作りについてだけを話します。
彼が頭の中で描いた音楽、その音楽作りは当時の現実を超越していました。


私たちがどれほど屈辱を感じたかよく覚えています。
彼のドイツはナチス・ドイツではないことはもちろん、やくざの群れ、犯罪者の集団、犯罪者に支配された国でもありませんでした。つまり、フランス、イギリス、アメリカなど他の国で、犯罪者を解放し、その中から最も賢いものを選んで権力だけ与えれば同じことができたのです。


「フルトヴェングラー事件」は、私がドイツに行く前に起こりました。
興味本位でパリの同僚に「今日のドイツの音楽家で誰を受け入れるか」を問うたところ、満場一致でフルトヴェングラーが支持されました。
そして、私がニューヨークを訪問したとき、あるフランス人は次のように言いました。
「翌日のニューヨーク・タイムズの見出しには、”Menuhin Calls on Allied World to Accept Fuertwaengler Again; Cities Snubs to Nazis”(メニューイン氏、連合国にフルトヴェングラー氏を再び受け入れるよう呼びかける。各都市はナチスを無視)とあり、フルトヴェングラーがニューヨークで活動しようとしているとか、とにかく、彼らは罠にかけるために私の真意とはまったく異なる嘘をでっちあげている」というのです。これが現実だと。


ハイフェッツは終戦の1年前に私に会いに来たが、その時すでに彼はアメリカのソロアーティストのための組合を設立していました。ハイフェッツは「この戦争はもうすぐ終わる。我々はアメリカの音楽家をヨーロッパの音楽家から守らなければならない」。
そういうわけで、私は組合には入らなかったのです。それがプロ意識というものです。
ちなみに、オーマンディやトスカニーニは私を説得しようとしましたがね。

「私が正しい」という思いは、結局ぶつかりを生み、争いを生む、どこまでも平行線の、人間の執らわれの最も苛烈なものだ。(本来、どちらも正しく、またどちらも正しくないのだ)

メニューイン フルトヴェングラー指揮ルツェルン祝祭管 ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(1947.8録音)ほか

ベートーヴェン:
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61(カデンツァ:フリッツ・クライスラー)(1953.4.7-8録音)
・ロマンス第1番ト長調作品40(1953.4.9録音)
・ロマンス第2番ヘ長調作品50(1953.4.9録音)
ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団

慈しみのベートーヴェン。
若きメニューインを包み込むフルトヴェングラーの慈愛は、ベートーヴェンの慈しみと共鳴、共振する(1ヶ月後の、シュナイダーハンとのライヴ録音と趣きを異にするのが興味深い。それはライヴとスタジオという環境の違いはもちろんだが、独奏者の違いの影響もあるのだろう)。

シュナイダーハン フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲(1953.5.18Live)ほか

E.T.A.ホフマンやショーの評論は、私も知っています。E.T.A.ホフマンはきわめて含蓄の深いものであり、ショーのものは機知縦横の趣きがあります。ただ読んでいて気にさわるのは—なるほどイギリスにとっては独立独歩で頼もしい批評家であったでしょうが—いかにもイギリス人らしく、イギリス音楽に対してはぜんぜん目がないというあの態度です。E.エルガーの退屈な規格品と真の巨匠の音楽とを同一の次元で論ずるようでは、少なくとも偏見のとりこになっていると言わなくてはなりません。
(1953年4月3日付、クルト・リース宛)
フランク・ティース編/仙北谷晃一訳「フルトヴェングラーの手紙」(白水社)P275-276

この数日後の、ロンドンはキングズウェイホールでの録音は、心なしか独墺音楽の優位性、中でもベートーヴェンの天才をイギリスの聴衆に示さんとするもののように感じられなくもない。もちろんそんな意志はなかっただろうが、それくらいに正統派で、静かなベートーヴェンであることにあらためて感動を覚える。

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