アントニオ・ヴィヴァルディの膨大な協奏曲作品のひとつひとつを見極めるのはとても難しい。人口に膾炙した作品ならまだしも、ほとんど知られていないような作品を発掘して演奏、音盤としてリリースされたものというと繰り返して幾度も聴き込まない限りものにすることは不可能。
しかしながら、その音楽に身を寄せている間の得も言われぬ愉悦感というのは確かにほかの作曲家からは得られない独特の感覚だ。南国イタリアの明朗さの中に在る何とも表現し難い寂寥感とでもいおうか、そこにはとても人間らしい優しさがある。同時に、僕たちに未来への希望という生きる力を与えてくれる、そんなパッションを秘めた音楽がたくさんあるのだ。
先日観たビートルズの映画”EIGHT DAYS A WEEK”では、2つのクラシック音楽作品が使われていた。ひとつはモーツァルトのハ長調協奏曲K.467のアンダンテ楽章、もうひとつがヴィヴァルディの協奏曲「冬」のラルゴ楽章。いずれもが、あのロック映画に見事にはまっていた。ビートルズと並ぶ音楽史上の天才はモーツァルトとヴィヴァルディであるとロン・ハワードは言いたいのだろうか。あるいは逆に、モーツァルトやヴィヴァルディと並ぶ最大のメロディ・メイカーはビートルズであると。納得だ。
この町(ヴェネツィア)では、人はいくつかの場合に限って涙を流す。美というのが網膜の一番しっとり落ち着くやり方における光の配分だと仮定してみると、涙というのは網膜が、それと同時に涙が、美をとめおけなかったという、その失敗を承認することにほかならない。総じて、愛というのは、高速で現れ、そして別離は、常に、音速でやってくる。人の瞳が涙で濡れるのは、より速いスピードであったものが、だんだん失速していくためである。
~ヨシフ・ブロツキー著/金関寿夫訳「ヴェネツィア―水の迷宮の夢」(集英社)P112-113
どの瞬間にもある何とも小気味良い旋律は、一聴ヴィヴァルディのそれだとわかる。
ヴィヴァルディは太陽の如く美しい。そしてまた、水の如く透明だ。
心を、魂を安寧に導くヴィヴァルディ。特に、緩徐楽章の癒しは彼ならでは。
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集第2集
・ヴァイオリン協奏曲ニ長調RV232
・ヴァイオリン協奏曲ホ長調RV264
・ヴァイオリン協奏曲ト短調RV325
・ヴァイオリン協奏曲イ長調RV353
・ヴァイオリン協奏曲ニ短調RV243「センツァ・カンティン」
・ヴァイオリン協奏曲変ロ長調RV368
アントン・シュテック(ヴァイオリン)
フェデリコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティコ(2006.2&8録音)
嗚呼、アントニオ・ヴィヴァルディ!
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[…] 久しぶりに聴いた、軽快ながら暗澹たる音調の協奏曲は、ヴィヴァルディの真の意味でのアートであり、深層吐露なのかもしれない。シュテックのヴァイオリン独奏は古楽器ながら深い […]