George Harrison “All Things Must Pass (new century edition)” (2001)を聴いて思ふ

最後に、読者を完全に信頼して打ち明けよう、実際人類は芸術的イメージ以外にはなにひとつとして私欲なしに発見することはなかったし、人間の活動の意味は、おそらく、芸術作品の創造のなかに、無意味で無欲な創造行為のなかにあるのではないだろうか、と。おそらく、ここにこそわれわれが神の似姿に似せて作られている、つまり、われわれに創造する力があるということが表明されているのである。
アンドレイ・タルコフスキー著/鴻英良訳「映像のポエジア―刻印された時間」(キネマ旬報社)P358

アンドレイ・タルコフスキーは、西洋音楽は常に「私、私」と叫ぶのに対し、東洋は自分自身について何も言わないと断言した。至言だと僕は思う。

All I can hear, I me mine
I me mine, I me mine
Even those tears, I me mine
I me mine, I me mine

ジョージ・ハリスンは、寝ても覚めても「私、私」と叫ぶ自分たちの生きざま(”I Me Mine”)に息苦しくなってグループを去った。それでも、人間である以上、エゴを捨て去ることのできない自分に絶望して、インドの師の下に走り、新たな音楽を追究した。
果たして彼は「悟り」を得ることができたのか?

All things must pass
All things must pass away
All things must pass
None of life’s strings can last
So, I must be on my way
And face another day

僕たちが輪廻の苦しみの中にあることを悟っても(”All things must pass”)、答を外に求めているうちは何も解決しない。
残念ながら、ハリスンは神を求めた。(”My Sweet Lord”)

My sweet Lord, I really want to see you
I really want to be with you
I really want to see you Lord
But it takes so long my Lord

また、ハリスンは神にすがる。(”Hear Me Lord”)

Forgive me Lord
Please those years when I ignored you
Forgive them Lord
Those that feel they can’t afford you

すがらずとも、芸術を創造する力によって十分救われていたはずなのに。
そこには自己不信があったのかどうなのか。

・George Harrison:All Things Must Pass (new century edition) (2001)

Personnel
George Harrison (vocals, electric and acoustic guitars, dobro, harmonica, Moog synthesizer, harmonium, backing vocals)
Eric Clapton (electric and acoustic guitars, backing vocals)
Klaus Voormann (bass guitar, electric guitar)
Jim Gordon (drums)
Ringo Starr (drums, percussion)
Billy Preston (organ, piano)
Alan White (drums, vibraphone)
Pete Drake (pedal steel)
Pete Ham (acoustic guitar)
Tom Evans (acoustic guitar)
Peter Frampton (acoustic guitar)
Dave Mason (electric and acoustic guitars)
Gary Brooker (piano)
Mal Evans (percussion, backing vocals)
Ginger Baker (drums) etc.

さすがにオン・タイムで聴けなかった僕も、1983年に初めて触れたとき、感激した。そこには、自身の信仰心を吐露し、何年にもわたり培養してきたマスターピースを意気揚々と奏でるジョージ・ハリスンのすべてがあった。たぶん、プロデューサーであるフィル・スペクターの力も大きい。もちろん、ハリスンは彼に(素直に)すべてを委ねたのである。
ちなみに、評論家の立川芳雄氏は、このアルバムを「東洋的ユートピア志向と、彼の持つミュージシャンとしての資質とが最も美しく調和した作品だ」と評したが、ハリスンが自身のすべてを投入したからこそ成し得た作品であり、同時に、時間の経過とともに独り歩きするようになった作品であるがゆえに哀しくも美しいのだと僕は思うのである。残念ながら、ジョージ・ハリスン個人は「悟り」を得ることはできなかった。
それは、これ以降のアルバムを聴き通せば明らかだ。

アンドレイ・タルコフスキーが語るように、創造行為は無欲であらねばならない。

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