ヴァルヒャ J.S.バッハ 18のコラールBWV651/668(1971.5録音)

モーツァルトがロココ風の宮廷音楽から出発し、ベートーヴェンが新興市民階級の主体的な美意識を音楽に吹きこんだとすれば、バッハの音楽はあくまでプロテスタント教会の存在と切りはなすことはできない。たとえケーテン宮廷の世俗性が彼を支えたとしても、プロテスタント教会という、神をあくまで自己との対決において見出す意志的な自己超越の場がバッハの前提になっていたのである。
ということは、バッハの音楽の洗練された官能性も、神への意志をのぞいては考えられない、ということだ。

「バッハのなかに響くもの」
「辻邦生全集19」(新潮社)P62-63

プロテスタントの賛美歌。旋律の宝庫。
バッハの才能が十全に発揮された最美のオルガン曲集。
この濃淡ある墨絵のような音響の中に埋もれるだけで、身も心も癒される。

3つのヴァースで構成される、8分を要する第6曲「罪なき神の小羊」の敬虔な力。こういう構成こそバッハの天才。

はじめの2つの詩節とも手鍵盤だけで奏される3声部曲で、第1詩節ではソプラノ、第2詩節ではアルトが定旋律声部である。そして、その定旋律が足鍵盤に移ると同時に曲が4声部になるというのが、第3詩節である。
「作曲家別名曲解説ライブラリー12 J.S.バッハ」(音楽之友社)P215

嗚呼、言葉にならぬ幸福感!

ヨハン・セバスティアン・バッハ:18のコラール
第1曲「来ませ、聖霊、主なる神よ」BWV651
第2曲「来ませ、聖霊、主なる神よ」BWV652
第3曲「バビロンの流れのほとりに」BWV653
第4曲「装いせよ、わが魂よ」BWV654
第5曲「主イエス・キリストよ、われらをかえりみたまえ」BWV655
第6曲「罪なき神の小羊」BWV656
第7曲「いざやもろびと、神に感謝せよ」BWV657
第8曲「われ神より離れじ」BWV658
第9曲「いざ来ませ、異邦人の救い主」BWV659
第10曲「いざ来ませ、異邦人の救い主」BWV660
第11曲「いざ来ませ、異邦人の救い主」BWV661
第12曲「いと高きところにまします神にのみ栄光あれ」BWV662
第13曲「いと高きところにまします神にのみ栄光あれ」BWV663
第14曲「いと高きところにまします神にのみ栄光あれ」BWV664
第15曲「われらの救い主たるイエス・キリストは」BWV665
第16曲「われらの救い主たるイエス・キリストは」BWV666
第17曲「来ませ、創り主、聖霊なる神よ」BWV667
第18曲「われ汝の御座の前に進みいで」BWV668
ヘルムート・ヴァルヒャ(オルガン)(1971.5録音)

ストラスブールはサン・ピエール・ル・ジュヌ教会のジルヴァーマン・オルガンによる演奏。
雲にも上るような、否、ほとんど天上の調べたる第13曲「いと高きところにまします神にのみ栄光あれ」BWV663の崇高さ!

録音当初はあまりに革新的な奏法で、批判も多かったと聞くが、ヴァルヒャの演奏は唯一無二の荘厳さ。同時に、親しみやすさを併せ持つ。バッハを堪能する喜びがここにある。

ヴァルヒャ J.S.バッハ フーガト短調BWV578(1970.5録音)ほか ヴァルヒャ J.S.バッハ トリオ・ソナタ第2番BWV526(1950録音)ほか ヴァルヒャのバッハ「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」BWV645(1947録音)ほかを聴いて思ふ

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