ウラディーミル・ホロヴィッツ・アット・ザ・ホワイトハウス(1978.2.26Live)

アメリカ合衆国第39代大統領であるジミー・カーターは大のホロヴィッツ・ファンだという。1978年、カーター大統領がホワイトハウスにホロヴィッツを招き、プライヴェート・リサイタルを開催した映像に度肝を抜かれた。

フォルテの際の、あまりの打鍵の強さは当時75歳の後期高齢者のものとは思えないもので、しかもただ無機的に煩いだけのものでなく、実に音楽的で意味深い有機的な(?)轟音なものだから一層驚いた。

ホロヴィッツ・アット・ザ・ホワイトハウス
・スミス:アメリカ合衆国国歌
・ショパン:ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品35「葬送」
・ショパン:ワルツ第3番イ短調作品34-2
・ショパン:ワルツ第7番嬰ハ短調作品64-2
・ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調作品53「英雄」
・シューマン:トロイメライ(「子供の情景」作品15より)
・ラフマニノフ:V.R.のポルカ
・ホロヴィッツ:ビゼーの「カルメン」の主題による変奏曲
ウラディーミル・ホロヴィッツ(ピアノ)(1978.2.26Live)

ホロヴィッツの十八番のショパン作品が並ぶ、壮絶な(?)プログラム。
技術的には正直だいぶ綻びがある。
しかし、これほどまでに気迫のこもったショパンがあろうかと思われるほど。冒頭、スミスのアメリカ国歌(観客全員起立)に続くショパンの「葬送」ソナタから鬼気迫るもので、手に汗握る必聴のパフォーマンス。象徴的なのは第2楽章スケルツォにせよ第3楽章「葬送行進曲」にせよ、強烈な主部に対して、中間部(トリオ)の嫋やかで夢見るような音調の対比の見事さ。

Vladimir Horowitz at the White House

笑顔のホロヴィッツと笑顔のカーターの交歓が素敵だ。
続くワルツ2曲もいかにもホロヴィッツ的な演奏で、特に作品34-2は涙なくして聴けぬもの。あるいは「英雄」ポロネーズも実にアグレッシブな演奏で、高校生の頃はまったく好きになれなかった解釈だが、大人になって久しぶりに聴いたとき、ホロヴィッツのこの曲にまつわる思いをあわせて知り、とても納得すると同時に、そういう視点で聴いてみると確かにホロヴィッツの方法もありだろうと思った。相変わらず演奏はアグレッシブでいかにも男性的。

その後の3曲のアンコールがまたホロヴィッツお得意の曲が並び、最高の境地を示す(何より「カルメン」変奏曲!!)

ところで、2度目の来日を果たしたときにホロヴィッツがインタビューに応えた記事が当時「音楽の友」(1986年8月号)に掲載された。中で、ホロヴィッツが「私がピアノを弾くときに目指しているのは、ピアノで歌うことなんです」と語っているところが興味深い。そしてまた、現代の諸相を評し、次のように言っている点がピアニスト、ホロヴィッツの真髄を示している。

「大きな音を出せば、たくさんの人がワーッとやって来てくれますが、静かな音楽で、聴いてくれる人を本当に感動させるのは、とても難しい。この時代には、何もかも、大きな音を出して、騒がしいですからね。自動車の騒音にしても、ポピュラー音楽にしても、耳がはりさけそうに騒がしいでしょう。
「音楽の友」1986年8月号(音楽之友社)

静かに、何より静かに。(ただし、ホロヴィッツの弾く音も相当大きな音だけれど)
ジミー・カーターはまもなく100歳の誕生日を迎えるそうだ。

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