衝撃のゴルトベルク変奏曲。
発表から70年近くが経過するが、こんなにも「新しい」ゴルトベルク変奏曲は他にない。
革新という、伝統の破壊によって始まる創造の極致。
グレン・グールド逝って42年。
1955年のデビュー盤の衝撃。
1959年のデニス・ブレスウェイトによるインタビュー。
DB:録音された曲目は、コンサート・ホールでの生演奏と比べて、欠けているものが非常に多いと思いますか?
GG:そうは思いません。私はレコード人間ですからね。こんなことを言うべきではないのですが、私は演奏会に行くのが好きではありません。もちろん自分の演奏会には「行く」ことになるわけですが、神妙な態度で臨みます。でもほかの人の演奏会ではいつもひどく落ち着かなくなります。自分がほかの晩に担う一種の責任をこの人たちも果たしているのだと、思っていつも苦痛を覚えるのです。
リラックスして演奏会を楽しむことなんて私にはできません。しかしほかの人の演奏をレコードで聴くのはリラックスできますし、楽しめます。私の音楽の聴き方の大半はそちらです。あくまで私個人にとっての話ですが、この大きな喜びをもたらしてくれるのはレコードだけなのです。
~グレン・グールド、ジョン・P.L.ロバーツ/宮澤淳一訳「グレン・グールド発言集」(みすず書房)P42
メディアの申し子たるグレンは、その当時、偏屈な人間に映ったことだと思う。
しかし、人間嫌いの者にとってレコードは最良の道具だった。彼の場合、音楽の受け手としての立場が、そのまま発信者としての立場と一緒になったに過ぎない。コンサート・ドロップアウトは必然だったのである。
グレン・グールドのバッハは不滅だと思う。
中でも、「ゴルトベルク変奏曲」は特別な意味を持つ。
・ヨハン・セバスティアン・バッハ:ゴルトベルク変奏曲BWV988
グレン・グールド(ピアノ)(1955.10.14-16録音)
録音からまもなく70年にもなるのかと驚くばかり。
何が凄いのか。
推進力と集中力、そして遠心力の掛け算の妙。外へ広がらんとするエネルギー、同時に内へと収斂していくエネルギー。時間の流れを止めてしまうような、そして空間を超える力。
バッハの未来への先見はグレン・グールドという稀代のピアニストを得て現実的に成ったのだろうと思うばかり。やっぱり凄い演奏だ。