Genesis Shepperton Studios Live (1973.11.30-11.1Live)

音楽を享受するという点で今は本当に良い時代になった。
かつては大枚叩いてしか手に入らなかった音楽的遺産が、あまりに簡単に視聴できるという幸せ。便利な分、失ったものもあろうが。

1973年の、絶頂期のジェネシスのライヴ・パフォーマンスの熱気。
彼らが唯一無二の存在であったことは、声色を変え、変幻自在のピーター・ガブリエルの演劇的パフォーマンスがその胆だけれど、5人のメンバーの抜群の演奏能力に追っているところからも容易にわかる。
半世紀以上前のパフォーマンスはまったく廃れていない。すべてが完全であり、またすべてが完璧だ。

この後まもなく、ピーターはジェネシスからの脱退を表明する。

ピーター・ガブリエルのプレス声明「コンクリートを動かす」
自分がなぜやめたのかについて考えてみた結果、以下のような理由が浮かんできた・・・

自分たちのソングライティングの下僕となるべき共同体として我々を築き上げた媒体は、やがて我々の主人となり、自ら求めた成功という檻の中に我々を閉じこめてしまった。それはバンド全体の態度と精神にも影響を及ぼした。音楽自体は枯渇していなかったし、ぼく自身、今でも他のメンバーたちを尊敬している。しかしバンド内での役割はすっかり固まっていた。ひとつのアイデアを実現させるためには、以前よりずっと多くのコンクリートを動かす必要があった。どのようなバンドであっても、理想主義的な情熱からプロフェッショナル精神へと気持ちを切り替えるのは難しい作業である。音響やヴィジュアル、イメージの使い方は、我々が行っていたものよりも遥かに進化させることが可能だとぼくは思う。しかしそれを大きなスケールで行うためには、ひとつの首尾一貫した明確な方向づけが必要だ。

ひとりのアーティストとして、ぼくは多種多様な体験を吸収しなければならない。音楽以外の場所で創り出されている作品に目をやり、学び取り、発展させ、自分のものにすることがぼくには必要だと思う。バンドの長期的なプランに縛られて活動しながら、同時に自分の直感と衝動に反応していくことは難しい。もしぼくがバンドにとどまったなら、獲得するお金と権力の増大によって、常にスポットライトの当たる場所に縛られることになっただろう。またぼくは家族と一緒にいることを望んでおり、彼らのために時間を開けることも大切だった。

過去7年間にぼくは非常に多くのものを見て学んできたが、自分が“ロック・スター”の目で物を見始めていることにある時気がついた。ビジネス用語で物事を考えるようになっていたのだ。かつてはシャイで、人にだまされることも多かったミュージシャンにとって、それは非常に役立つことではあった。しかしレコードやオーディエンスをお金に換算して考えることによって、ぼくと彼らとの間には距離ができてしまった。演奏をしていても、背筋が震えるような感覚は昔ほどなくなっていた。

世界はもうすぐ変化に満ちた難しい時代をきっと迎えることだろう。人の心の中に潜んでいたある領域が表面に出てこようとしていることに、ぼくは興奮を覚えている。
古いヒエラルキーに縛られるのではなく、いつでも反応できるぐらいオープンな柔軟性を持っていられるように、ぼくは探求し、準備を整えておきたい。
音楽におけるぼくの未来は、もしそれがあるとすればの話だが、可能な限り様々なシチュエーションで繰り広げられることになるだろう。カテゴリーという枠をうち破るアーティストの数が増えているのは嬉しいことだ。言ってみればそれは、狭い仕切りの中に閉じこめられて多くの収益をもたらすニワトリと、放し飼いの鶏との違いである。


ぼくとバンド、あるいはぼくとマネージメントとの間に、憎悪関係はない。決定が下されたのはかなり前のことで、以来ぼくたちは新しい方向性についてずっと話し合ってきた。ぼくの脱退がもっと早いうちに発表されなかったのは、抜けた穴を埋める人間が決まるまで言わないでおいてくれと頼まれたからである。将来ぼくたちがコラボレートする可能性がまったくないわけではない。

ぼくが抜ける理由についてはありとあらゆる噂が流れ、中には奇抜なものもいくつかあった。ぼくはインタビューの中で自分を表現する人間ではないから、たくさんの愛情とエネルギーを注いでバンドを支えてきてくれた人たちには、自ら直接気持ちを伝える必要があると思った。だからこうしてペンを取ったのである。

以下の憶測には真実はほとんど含まれていない:
ガブリエルがジェネシスを離れたのは—
1) 芝居に転向するため。2)ソロ・アーティストとしてお金を稼ぐため。3)ボウイみたいになるため4)フェリーみたいになるため。5)ファリー・ボウアイ(毛皮のボア)をしてそれで首を吊るため。6)病院に行くため7)田舎で老いぼれるため。
ぼくはインタビューの中で自分を的確に表現する人間ではない。しかしたくさんの愛情とエネルギーを注いでバンドを支えてくれた人たちには、脱退の理由を正確に伝える義務があると思う。そこでお願いしたいのだが、この文章を掲載する際には全文を印刷し、そうでなければまったく載せないでほしい。

VJCP-36072-75ブックレット(野村伸昭訳)

この、少々長い声明にはピーター・ガブリエルという人間のすべてが映し出されていると思う。
繊細な彼にとって真実は一つであり、虚構の自分を葬り去りたかったのだろうと想像する。
そして彼の、時代を先読みする千里眼的思考に僕たちは脱帽せざるを得ない。

Personnel
Peter Gabriel (lead vocals, flute, oboe, percussion)
Tony Banks (keyboards, guitar, backing vocals)
Mike Rutherford (bass, guitar, bass pedals, backing vocals)
Steve Hackett (guitar)
Phil Collins (backing vocals, drums, percussion)

当時のジェネシスは間違いなくピーターあってのバンドだった。
奇抜なアイデアからもたらされるステージの興奮と類稀なる芸術性。
ステージ上でパフォーマンスを繰り広げ、声色を変えて物語を語るピーターを、マイクとスティーヴが笑みを浮かべ、なかなかやるな!という表情で讃える姿が微笑ましい(この時点では間違いなくピーターがヒーローだったのである)。

そして、レコードと同等の、否それ以上のレベルに達する歌唱力こそピーター・ガブリエルをスターダムにのし上げた所以だと思う。本当に素敵だ。

Genesis Archive 1967-75 “Supper’s Ready” (1973.2.9Live) Genesis, live at the Bataclan, Paris,16mm master (1973.1.10Live) 懐かしいライブ盤・・・ 懐かしいライブ盤・・・

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