“Horowitz in Moscow” & “Argerich on Horowitz”

ホロヴィッツが60年ぶりに祖国にカムバックし、開いたリサイタルはとても感動的だ。
何よりその日を楽しみしていたであろうモスクワの聴衆の、食い入るようにピアニストを見つめる視線、そして息を凝らして一音漏らさず聴こうとする姿勢、さらには音楽を聴いて涙する姿に言葉がない。

最晩年のホロヴィッツは、少なくともピアノに向かう瞬間、神の如くだ。
(曲間のお道化た姿は好々爺)

こころ こころ

そのときの映像を観て感激するアルゲリッチの漏らす言葉に僕はまた感激する。
マルタ・アルゲリッチはホロヴィッツの大ファンらしい。

スクリャービンのエチュード嬰ニ短調作品8-12を聴いて、アルゲリッチは唸る。
「ホロヴィッツの演奏を聴くと鳥肌が立ちます。それは他のピアニストにはないことです」
圧巻だ。

また、ショパンのマズルカヘ短調作品7-3を聴いて、アルゲリッチは感嘆する。
「彼のマズルカは本当に素晴らしい。並はずれたクオリティーです。私が今まで聴いたマズルカの中で最高のものです」

そして、モーツァルトのソナタ第10番ハ長調K.330(300h)第2楽章アンダンテ・カンタービレの崇高な演奏を前に彼女は言う。
「素晴らしい。純粋な美しさ。私は彼の表情が好きです。彼の方法すべてが好き。私はホロヴィッツに夢中だわ。ホロヴィッツは各曲に対して5つの異なる解釈を持っていて、それらを同時に演奏するのです。彼の演奏とイマジネーションは実に豊かです」

さらに、観客の感涙を喚起するホロヴィッツ十八番であるシューマンのトロイメライについては、アルゲリッチは次のように評するのだ。
「彼は音楽に包含されるものをすべて示してくれます」

これは何かのドキュメントなのだろうか、何だかマルタ・アルゲリッチのプライヴェート・シーンを覗くようですべてが実に興味深い。何よりオフステージの彼女がホロヴィッツの演奏を絶賛する様子に、そして真剣に演奏に耳を傾けるその眼力(めぢから)に僕は言葉を失うのだ(ちなみに、アルゲリッチはホロヴィッツの弾くスカルラッティをどう感じているのだろう?)。
最後に、ラフマニノフのW.R.のポルカを聴いて、彼女は言う。
「彼はピアノにとって最高の恋人です!」

ウラディーミル・ホロヴィッツはピアニストの鑑だ。

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