小澤&パリ管のチャイコフスキー

小澤征爾が1970年にパリ管弦楽団と録音したチャイコフスキーの第4交響曲を聴いて驚いた。
とにかく音に勢いがあり、アンサンブルも緻密、何より音楽の作りそのものが前進的で一聴引き込まれた。よもや自分が小澤の音楽でこういう感覚になるとは思ってもみなかったから(失礼か)あまりに新鮮で・・・。
おそらくこれはオーケストラの力量に依るところ大だと思う。シャルル・ミュンシュが晩年に残したこの管弦楽団との名録音を聴く限りにおいて、それより3年ほどしか経っていないことを考えると間違いないように思われる。
音楽において指揮者のセンスや音楽的素養はもちろん重要なのだけれど、実際に演奏する奏者やオーケストラの技術が同様に大切なことをあらためて確認した。

そういえば昨日のノリントン&NHK交響楽団の第9交響曲は決して凡演ではなかったと思うのだけれど、僕の趣味に合わなかったのか、どうもいまひとつ心を揺さぶられなかった。
オケがノリントンの独自のピリオド的解釈にまだまだ慣れていないのかと思ったりもしたが、楽団の演奏技術について云々するほどN響に関して通ではないので、このあたりは今後の宿題(研究課題?)ということにしておこう。ノリントンの場合音盤では面白く聴けたので、何かしら理由があるのだと思うので(単に僕の耳の問題かもしれないが)。

で、小澤のチャイコフスキー。
ある友が例によって贈ってくれたもの(間違っても自分では買わない・・・笑)。
これを聴いて先日の「展覧会の絵」のことを考えた。ストコフスキーはムソルグスキーのこの組曲をオーケストラ・アレンジするにあたりフランス的過ぎるという理由から「テュイルリーの庭」と「リモージュの市場」をカットしたが、ロシアとフランスというのは本当はすごく連関性があるのでは?いろんな意味で異なる国だけれど、であるがゆえに表裏なのではと。
ムソルグスキーとラヴェルのこと、あるいは20世紀初頭のディアギレフ率いるバレエ・リュスのことなどを考えると、ロシア芸術というのはフランス的感性が注入されることでより高度にブラッシュアップされるのでは。土俗性と都会的洗練との邂逅により生まれるハーモニーとでも言おうか。

チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36
小澤征爾指揮パリ管弦楽団(1970年録音)

パリのオーケストラの音色は華麗だ。
それを小澤がとても正確なバトンで完璧にドライヴする。
第1楽章の冒頭ファンファーレもフィナーレのそれも胸がすくほど見事だし、第3楽章のピツィカートもこれだけで不思議に感動を覚えるほど。
いや、侮っていた。
若い頃に植えつけられた「思い込み」というのは怖い。随分損もしかねない。

仕事の関係で本日帰省。
東京も相当に寒かったが、さすがにそれ以上。この寒波は身体にかなりきつい・・・。


7 COMMENTS

neoros2019

半年周期で岡本さんのブログを閲覧させていただいております
年代が近いせいか聴いているクラシックのみならず、ジャズ、プログレその他映画等感覚的に通ずるものが多いいようです
私にとってチャイコ4のベスト1はこの演奏のLPが新譜で1971年当時出た頃からですね
ボストンの常任になった頃から現在に至るまで小沢で感動できる演奏に出会ったものは皆無です
1990年代初頭のボストンとのベルリオーズのレクイエムやベルリンフィルとのカルミブラーナなど最悪の記録と言って良いと考えます

返信する
岡本 浩和

>neoros2019様
ありがとうございます。
だいぶ前にブログを読ませていただいたことあると思いますが、タイトルが変わりましたね。
なるほど、この名盤も新譜で聴かれているのが何よりすごいです。
僕はお恥ずかしい限りで、小澤に関してはまったくNGだったので、この時まで知りませんでした。
友人から贈ってもらったものと言っても、先方が勝手に送ってきたもので、しばらくそのままになってたのですが、それも失礼かと思い、耳にしたところ惹き込まれてしまったということです。
今後ともよろしくお願いします。

返信する
岡本浩和の音楽日記「アレグロ・コン・ブリオ」

[…] 1年半ほど前に聴いた小澤征爾&パリ管のチャイコフスキーには心底驚いた。予想だにしなかった荒れ狂う前のめりの音楽に僕は一聴打ちのめされた。 チャイコフスキーばかりでなく、僕は小澤征爾をも侮っていたんだ。自分のことは棚に上げて何人もの天才たちを意識の外に葬ってきた碌でなしということ。 「思い込み」や「先入観」というのは人の感性を駄目にする。 芸術作品に触れるときに大事なのは「無心であること」。そんなことをあらためて思った。 […]

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む