ラレード&ルヴィエのラヴェル「2台のピアノのための作品集」(1985.7録音)を聴いて思ふ

何て美しい音楽なのだろう!!
子どものために書かれた作品だからか、何と無垢で純粋なのだろう!!

ジャン・コクトーは「美について」かく語る。

美とは、この世の存在を互いに惹き寄せあい、互いを自らの支えとして信頼させあうために、自然がめぐらす巧妙な策略の一つだ。
自然のその策略の行使方法はこの上ない無秩序の中にある。人間が背徳と称しているものは、自然のあらゆる種にも共通のもので、そのメカニスムは、様々のものに盲滅法に作用している。自然は、いかなる犠牲を払ってでも、その目的を達成してしまうのだ。
ジャン・コクトー/秋山和夫訳「ぼく自身あるいは困難な存在」(筑摩書房)P174

傑作というのは、どの時代においても、いわば作曲者の身体を借り、先端に作用した自然の最高の境地であるように僕は思う。
例えば、モーリス・ラヴェルのピアノ連弾による「マ・メール・ロワ」。
丁々発止でありながら、究極の和合。20本の指が奏でる魔法と言うと言い過ぎか・・・。
ここには、2台のピアノが融け合う瞬間の得も言われぬ快感がれっきと存在する。
第1曲「眠りの森の美女のパヴァーヌ」の束の間の休息と癒し・・・。また、第2曲「おやゆび小僧」の歌。そして、第3曲「パゴダの女王レドロネット」の、可憐なメロディと寛容な旋律の交歓にため息が出るくらい。さらに、第4曲「美女と野獣」の虚ろな響きは官能の極み。第5曲「妖精の国」は、特に高音部のフォルティシモのグリッサンドなどずっと浸っていたいほどの恍惚感。
ルース・ラレードとジャック・ルヴィエの、それこそ互いに惹き寄せあい、互いを自らの支えとして信頼する連弾の妙。

ラヴェル:2台のピアノのための作品集
・ボレロ
・子どものための5つの連弾曲「マ・メール・ロワ」
・聴覚的風景
・さし絵(5手のための)
・ラ・ヴァルス
ルース・ラレード(第1ピアノ)
ジャック・ルヴィエ(第2ピアノ)(1985.7.18-20録音)

「ボレロ」でのラレードの正確無比なリズムに乗り、ルヴィエがこれまた色気ある東洋的旋律を奏でる様に、確かにオーケストラでなくてもこの作品が十分に色彩豊かであることを知る。そして、主題が徐々に高揚する中で、この世界の「阿吽の呼吸」というものの素晴らしさを実感する。名演だ。
ちなみに、「ボレロ」と対となる「ラ・ヴァルス」の、沈潜する情念。この暗さに僕たちは思わず惹き込まれるのである。

これは僕にとって、この世でいちばん美しく、いちばん悲しい風景だ。前のページのものと同じだが、きみたちによく見てもらいたくて、もう一度描いた。小さな王子さまが地上に姿を見せたのも、そして消えたのも、ここだった。
だから、しっかり見ておいてほしい。いつかきみたちが、アフリカの砂漠を旅することになったら、必ずここがわかるように。そうしてもしこの近くを通ることがあったら、どうか急がず、この星の真下で少し待ってみてほしい!もし子どもがひとり、きみたちのほうへやってきたら、そしてその子が笑って、金色の髪で、なにかたずねてみても答えなかったら、きみたちにはその子が誰か、きっとわかる。そのときは、たのんだよ!悲しみに沈んでいる僕に、すぐに手紙を書いてほしいのだ。彼が帰ってきた、と・・・
サン=テグジュペリ/河野万里子訳「星の王子さま」(新潮文庫)P145

音は現れ、またすぐに消えてゆく。
だから、しっかり聴いておいてほしい。

 

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2 COMMENTS

雅之

先月、「無限の空間に無限の恒星が一様にばらまかれているとしたら、空は全体が太陽面のように明るいはず」という昔からあるパラドックスの疑問に、わかりやすく答えている本を読みました。

宇宙はなぜ「暗い」のか?  津村 耕司 (著)  ベレ出版

https://www.amazon.co.jp/%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%80%8C%E6%9A%97%E3%81%84%E3%80%8D%E3%81%AE%E3%81%8B-%E6%B4%A5%E6%9D%91-%E8%80%95%E5%8F%B8/dp/4860645014

>音は現れ、またすぐに消えてゆく。

音楽とは、まるで、物質と反物質が衝突して対消滅した後に発生する、(その総量のほとんどが目には見えない)膨大なエネルギーのようです。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

雅之さんの宇宙的規模の果てしない知的欲求にいつも感心させられます。
また面白そうな本ですね。ありがとうございます。

>物質と反物質が衝突して対消滅した後に発生する、(その総量のほとんどが目には見えない)膨大なエネルギーのようです。

永久の時間からすると人生なんて一瞬の出来事です。
音楽に限らず、存在するものはすべてそうなのかもしれません。

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