アンサンブル・ミッドヴェストのゲーゼ室内楽作品集第2巻(2013録音)ほかを聴いて思ふ

協働作業に垣間見る美しさ。
北国発の音楽は、素朴でどちらかというと保守的な色合いが濃いように思うが、そこには一片の雪のような透明さと、水を含んだ新雪の暖かさが感じとれるもの。何という懐かしさ。
19世紀デンマークの作曲家、ニルス・ウィルヘルム・ゲーゼ。
まだ無名の頃の、若きエドヴァルド・グリーグは、ゲーゼの助言を乞うたという。

メンデルスゾーンのような明快な旋律ながら、どこか暗澹たる曲想を秘めるゲーゼの音楽は、たぶん僕たち日本人にはとても親しみやすいものだろう。例えば、四重奏曲ホ短調第1楽章アレグロの主題など、即座に記憶を引き出すのは難しいのだけれど、どこかで聴いた、有名な誰かの生み出した旋律にそっくりなものがあるはずだ。あるいは、開放的な第2楽章アレグレットにすら肌寒い哀感こもるのだから、北欧人の心象風景というものはそういうものなのだろう。しかし、この音調はどこかで耳にしたことがある。そうだ、フランツ・シューベルトの方法だ。シューベルトのように冗長ではないが、短い音楽のなかに、かのシューベルトが逍遙したであろう大自然の美しさが見事に刻印される。そして、第3楽章スケルツォも明らかにシューベルトの影響下。さらに、疾走する終楽章アレグロの劇性は、デモーニッシュな後期ロマン派の常套。

ゲーゼ:室内楽作品集第2巻
・弦楽四重奏曲ホ短調作品8(1877/1889)(2013.12.16-18録音)
・ピアノ三重奏曲変ロ長調第1楽章(1839)(2013.12.17録音)
・ピアノ四重奏のためのスケルツォ嬰ハ短調(1836)(2013.1.14録音)
アンサンブル・ミッドヴェスト
アナ・フェイトーザ(ヴァイオリン)
カロリナ・ヴェルトフスカ(ヴァイオリン)
マシュー・ジョーンズ(ヴァイオリン)
サンナ・リパッティ(ヴィオラ)
デイヴィッド・サミュエル(ヴィオラ)
ジョナサン・スラット(チェロ)
マルティン・クヴィスト・ハンセン(ピアノ)

青年時代のピアノ三重奏曲には、ロベルト・シューマンからの影響が窺える。
人が人に触発され、音楽を創り出す様の奇蹟。
知られざる作品に生命が吹き込まれる瞬間こそに真実があるように僕は思う。

ところで、久しぶりにグリーグを聴いた。様々な標題を持つ「抒情小曲集」。生涯にわたって書き綴った詩情豊かな小品が、ピアノによって囁き語られる様がやっぱり美しい。

グリーグ:抒情小曲集
・「アリエッタ」作品12-1(第1集)
・「子守歌」作品38-1(第2集)
・「蝶々」作品43-1(第3集)
・「孤独なさすらい人」作品43-2(第3集)
・「手帖のページ」作品47-2(第4集)
・「メロディ」作品47-3(第4集)
・「ノルウェー舞曲(ハリング)」作品47-4(第4集)
・「夜想曲」作品54-4(第5集)
・「スケルツォ」作品54-5(第5集)
・「郷愁」作品57-6(第6集)
・「小川」作品62-4(第7集)
・「家路」作品62-6(第7集)
・「バラード風に」作品65-5(第8集)
・「おばあさんのメヌエット」作品68-2(第9集)
・「そなたのおそばで」作品68-3(第9集)
・「ゆりかごの歌」作品68-5(第9集)
・「昔に」作品71-1(第10集)
・「小妖精」作品71-3(第10集)
・「過去」作品71-6(第10集)
・「余韻」作品71-7(第10集)
エミール・ギレリス(ピアノ)(1974.6録音)

もはや僕が何かを語るまでもない天下の名録音。ギレリスはかつて「鋼鉄のピアニスト」と呼ばれたらしいが、そんなことを微塵も感じさせぬ静寂に満ちる可憐な音色。感極まる「アリエッタ」作品12-1を聴きながら、「犀川」を追う。

うつくしき川は流れたり
そのほとりに我は住みぬ
春は春、なつはなつの
花つける堤に座りて
こまやけき本のなさけと愛とを知りぬ
いまもその川ながれ
美しき微風ととも
蒼き波たたへたり
「犀川」
室生犀星「抒情小曲集/愛の詩集」(講談社文芸文庫)P44

そうして僕は、有名な「小景異情」に戻り、「郷愁」作品57-6を耳にする。

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるなじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
~同上書P33

音楽は考えるものではなく、ただ感じるものだ。

 

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