風変わりな詩人。
眠ってはいけない、眠れる美女よ
お聴き! あなたの恋しい人の声を
かれは リゴードン舞曲を つま弾いている
かれは どんなに あなたを愛していることか!
かれは詩人なんだ
~エリック・サティ/秋山邦晴・岩佐鉄男編訳「卵のように軽やかに」(ちくま学芸文庫)P219
「朝の歌」に込められた心の叫び。エリック・サティの内心は、自身の音楽に対する自負でいっぱいだったことだろう。
サティ様、
私は8年来、鼻茸を患い、さらに併発した肝臓病とリューマチにも苦しめられてきた者でございます。
それがあなた様の《オジーヴ》を聴いてからというもの、病状は目に見えて好転し、《ジムノペディ第3番》を4,5回用いましたら、すっかり治ってしまいました。
エリック・サティ様、私が得ましたこの証を、どうぞご自由にお役立てください。
とりあえず御礼まで
プレシニー=レ=バレイエットの日雇い労働者
~同上書P127
自作自演は、何だか滑稽だが、これこそ高踏詩人サティの成せる業。
実際、アルド・チッコリーニの奏する「オジーヴ」を聴いて、そのアンニュイな音調に、僕は気持ちが一層明るくなった。病は気から。好転だ。
「ナザレ人の前奏曲」のような、サティらしい、エキゾチックな、謎の、不穏な(?)響きが僕は好き。チッコリーニはサティに思念を込める。
詩人は 古びた塔に閉じこめられている
風が吹く
詩人は瞑想する
そんな素振りもみせずに
~同上書P220
俗世間と隔離されねば良いものは生まれると言うかの如し。
サティの音楽は瞑想の裡に生まれたものだろう、それがゆえの開放が、外交がある。
チッコリーニの弾く「ヴェクサシオン」の瞑想には、言葉にならぬ香気がある。