バックハウス クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィル ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番ほか(1962.5.31Live)

動くフルトヴェングラーを初めて観たとき、僕は心底感激した。
同様に、動くクナッパーツブッシュを、それも断片ではなく、初めて老巨匠の指揮するコンサートのすべてを収録した映像を観たとき、僕は言葉を失った。

奇を衒わない、自然体の指揮姿から発せられる途轍もないオーラに釘付けになった。
舞台上手から登場するや、聴衆に向かって一礼だけして音楽を始めようとする指揮者に対する拍手は易々と治まらず、コンサートマスターのヴィリー・ボスコフスキーに促されて再起立、聴衆にあらためてお辞儀し、徐に音楽を開始するその仕草すべてがぶっきら棒でありながら何と音楽的であることか(爆発的な喝采はいよいよ眼前に現れた指揮者への尊敬と憧憬が込められた期待の大きさの表れだったのだろう)。レオノーレ序曲第3番は、序奏アダージョから主部アレグロへの移行部のあまりの神々しさと微動だにしない堂々たるテンポ設定にクナッパーツブッシュの天才を思い、同時にウィーン・フィルの金管群の咆哮が、(碌にリハーサルなどしないだろうに)ほとんどクナッパーツブッシュ色に染まるのを聴いて、やっぱり驚いた。超絶名演奏!!

そして、バックハウスを独奏に据えたピアノ協奏曲第4番は、その数年前の第5番「皇帝」でのちぐはぐな迷演奏とは裏腹に、バックハウスの無骨ながら優美で瞑想的なピアノ独奏に続き、決してぶれることなく、また互いがぶつかることなく調和する指揮者と管弦楽に感銘を受ける。何より第2楽章アンダンテ・コン・モートは、極めつけの美しさ。そして、高音トリルの可憐さ。さらには、終楽章ロンド(ヴィヴァーチェ)の手堅い音楽は余計な遊びを捨て、あくまでピアノと同期しようと努める指揮者の無心の賜物か。

・ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番作品72b
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より第1幕前奏曲と第3幕イゾルデの愛の死
ビルギット・ニルソン(ソプラノ)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1962.5.31Live)

アン・デア・ウィーン劇場での貴重な録画は、1962年のウィーン芸術週間でのコンサートの模様。
デッカの有名なスタジオ録音から2年と8ヶ月後のライヴは真に素晴らしい)
ニルソン独唱による死を目前にしたイゾルデの高鳴る愛の結晶たる「イゾルデの愛の死」はもとより「トリスタンとイゾルデ」第1幕前奏曲の恐るべき官能と、音楽だけを聴いていると3年後に死を迎えるとは思えない指揮者の発する活気と色香に唖然とせざるを得ない。よくぞこんな映像が残っていたものだとあらためて感心する。

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