フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル ワーグナー 歌劇「ローエングリン」第1幕前奏曲(1954.3.4録音)ほか

個人的には最高のリマスタリングの成果のように思う。
もう何十年も聴き続けてきた演奏が、これほどまでにリアルに、迫力をもって聴こえる様子に感動する。低音が充実し、弦楽器が広々と鳴り渡り、指揮者が表現したいことが手に取るように見えるのが素晴らしい。何よりフルトヴェングラーらしいデモーニッシュな表現が、録音という限られた環境の中で聴き手の胸に真に迫るのだから堪らない。

しかしながら、そのような時折失われた直接性に代って、新しい視点が姿を現す。内部から音楽を体験するという感覚だ。リスナーは、ただ単に音楽を受動的に「聴く」のではなく、聴覚体験の中に能動的に参加させられる。フルトヴェングラーはテンポの空間的変動範囲を広げることによって、作品の内部構造とその精神の中にある神秘的な感覚を喚起する。
サム・H・白川著/藤岡啓介・加藤功泰・斎藤静代訳「フルトヴェングラー悪魔の楽匠・下」(アルファベータ)P308

あの楽劇「トリスタンとイゾルデ」のスタジオ録音こそ最高の成果だというが、「トリスタン」に限らず、最晩年の、特にコリングウッドとの録音はいずれもが見違えるような音で僕たちの心に、魂に迫ってくるのである。

しかし、レッグとの仕事でもっとも成功した部分は、序曲などの小品だった。せいぜい78回転盤の一面か二面に収まるもので、曲の流れを妨げる中断がないものだ。コリングウッドとの共同による最良の作品はもちろん《ヴァルキューレ》と、ベートーヴェンの第5番の3度目の、そして最後となったスタジオ録音で、いずれもウィーン・フィルハーモニーとの共演だった。
~同上書P309

確かにどの録音も素晴らしい。しかし、やっぱり最後の年の小品のすべて(ローランス・コリングウッドのプロデュースによる、ただし「レオノーレ」はフリッツ・ガンス)に僕は太鼓判を押す。

・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕前奏曲(1954.3.4録音)
・ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」作品77序曲(1954.3.5-6録音)
・ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」作品81序曲(1954.3.6録音)
・グルック:歌劇「アルチェステ」序曲(1954.3.8録音)
・グルック:歌劇「アウリスのイフィゲニア」序曲(1954.3.8録音)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
・ベートーヴェン:レオノーレ序曲第2番作品72a(1954.4.4-5録音)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

「ローエングリン」前奏曲は、他の誰のどんな演奏よりも神秘的であり、透明だ。まさに「内部から音楽を体験する」という表現が相応しい見事な演奏だと思う。
そして、フルトヴェングラーが愛したオペラ「魔弾の射手」の序曲の、鬱蒼と生い茂るドイツの大自然の大らかさと暗黒を共時に表したような表現に言葉を失う。グルックの2曲もどこまで精神性を追求するのかと思わせるほどの深みと輝きを秘めるが、最高なるはベルリン・フィルとのレオノーレ序曲第2番!!(僕はこの演奏がこれほどまでに凄味を持ったものであったことをつい今まで気がつかなかった)

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