ロストロポーヴィチ アルゲリッチ ショパン チェロ・ソナタ作品65ほか(1980.3録音)

死を目前にしたショパンの苦悩。

「ああ、素晴らしい科学。苦しみを長びかせるだけだ! 力を取り戻してくれるとでもいうのか? 善行を行ったり、幾分でも犠牲を払ったりできるようにしてくれるとでもいうのか?—ぼくを愛する者すべてを失神させ、悲しみをもたらし、苦しみを与える一介の命に過ぎないのに。そんな命を延ばそうとするなんだ—ああ、素晴らしい科学!」そしてこう繰り返した。「あなたは残酷なまでにぼくを苦しめる。たぶんぼくの病気について判断を誤っているんだ。でも神は誤られない。神はぼくを罰せられる。だからこそ、神を祝福するんだ。この下界で罰して下さるとは、神は何と良きお方か! ああ、神は何と良きお方か!」
パトリック・カヴァノー著/吉田幸弘訳「大作曲家の信仰と音楽」(教文館)P105-106

「不老不死」という幻想から死という現実を、寿命という掟を、人類は長らく遠ざけようとしてきたことに対する、信仰という観点からのショパンの思念。有限の世界が修業の場であり、自身に与えられた使命が何であるかを知っていた彼は、短い、39年という生涯を音楽の革新に賭けた。上記の言葉を読むにつけ、ショパンの数多の傑作がまさに天人合一の、人間業とは思えない産物だと確信する。

中でも最高傑作の一つチェロ・ソナタ。
この作品には至高の、唯一無二と言っても言い過ぎでない名演奏の名録音がある。
幾度も取り上げ、その度に僕は歓喜の、感嘆の思いを綴ってきた。

ショパン:
・チェロとピアノのためのソナタト短調作品65(1846)
・序奏と華麗なるポロネーズハ長調作品3(1829-30)
シューマン:
・アダージョとアレグロ変イ長調作品70(1849)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)(1980.3録音)

最晩年の心の叫びが、時に激しく、時に安らかに奏でられる様子に言葉がない。ロストロポーヴィチとアルゲリッチの、互いに寄り添っての、また切磋琢磨のパフォーマンスに永遠を思う。アルゲリッチのエキゾチックな微笑に破顔の微笑たるロストロポーヴィチの絶妙なるコントラストの名ジャケットに乾杯!

過去記事(2017年5月11日)
過去記事(2010年9月14日)
※なお、生誕200年の年に名古屋で聴いた新井康之さんのチェロも素晴らしかった。

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