Pink Floyd “Wish You Were Here (Experience Edition)”を聴いて思ふ

pink_floyd_wish_you_were_here213人々は孤独と闘う。そこには何もない。

不在を強烈に喩える、あるいは象徴するようなものを探した。僕たちがとくに興味をひかれたのは、見せかけ、つまり本物と思われているものが、実はニクソン大統領の否定みたいにインチキだということを含めた、不在の一面だった。
ニコラス・シャッフナー著/今井幹晴訳「ピンク・フロイド―神秘」(宝島社)P224

あるのは不安であり、偽りである。世の中のほとんどは「似非」といっても過言でないのでは?いかに真実を露わにするか、ロック・スターは自分たちの内面と闘った。そして、世界にもそのことをアピールしようとした。出来上がったアルバムが”Wish You Were Here”だ。

スタジオにて、名曲”Shine On You Crazy Diamond”の最終ミキシングを必死に行っていた時、髪と眉毛を剃り、白いトレンチ・コートを着て白い靴を履き、白いビニールの袋を持った太った男がうろうろと入って来たらしい。かれこれ40年前の話である。

誰も彼に見憶えがなかった。入っていったら、ロジャーがすでにスタジオの中で働いていたのを憶えている。中に入ってロジャーの隣に座った。10分ほどして、ロジャーが僕に言ったんだ。「あいつが誰だか知ってるかい?」。僕は、「わかんないね。君の友だちかと思ったよ」。彼は、「考えろ、よーく考えるんだ」。それで僕は彼をずっと見つめた・・・そして突然それがシドだってわかったんだ!
~同上書P222

不安と不在の象徴こそがシド・バレットその人だった。それだからか、虫の報せかの如くかつてのリーダーは姿を現したが、最初誰も彼をその人だと認識できなかったことが皮肉。

なるほど、君は教えることができると思っているのかい?
地獄から天国へ、
痛みから青空へ、
冷たい鋼鉄の線路から緑の草原に、
そして偽りの微笑みから真実の微笑みへとどうすれば変えられるのか。
~”Wish You Were Here”

すべては相対、陰陽のうちに在る。まさに前作”The Dark Side of the Moon”の思想を引き継いだフロイドの傑作。

Pink Floyd:Wish You Were Here (Experience Edition)

Personnel
David Gilmour (lead and backing vocals, guitar, lap steel guitar, EMS Synthi AKS, keyboards, tape effects)
Nick Mason (drums, percussion, tape effects)
Roger Waters (lead and backing vocals, bass guitar, guitar, EMS VCS 3, tape effects)
Richard Wright (keyboards, EMS VCS 3, clavinet, backing vocals)

最終的に内部分裂してゆくフロイドの、ある意味最後の傑作が“Shine On You Crazy Diamond”。ここでのギルモアもウォーターズも、そしてメイスンもライトも、天才バレットの魂に語りかけるようにひとつになる。見えない力が確実に働くのである。何より、夜明け前の暗黒から朝日が昇り、大空に煌めくようなイントロの荘厳さに金縛り。30年前、初めて耳にした時には寝る間も惜しんでこの作品に没頭したほど。

ちなみに、”Wish You Were Here”のアウトロにはジャズ・ヴァイオリンの巨匠ステファン・グラッペリが特別参加しているそう(アルバム収録バージョンではほとんど聴こえないけれど、ボーナス盤収録バージョンではアウトロだけでなく至る箇所で彼のヴァイオリンが活躍する。資質の違いが浮き彫りになっているが、その音色はあまりに美しい・・・)。見えない力がここでも働く。
ボーナス・ディスクに収録される未発表の1974年ウェンブリーでのライブがまた素晴らしい。

 

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