カサドシュ チェリビダッケ指揮ウィーン響 ラヴェル 左手のためのピアノ協奏曲ニ長調M.82(1952.10.30Live)

モーリス・ラヴェルの最高傑作の一つ。
左手一本だけでよくもまぁこれほど洗練された音楽を創造できたものだと舌を巻く。
第一次世界大戦で右手を失ったパウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱による。

モーリス・ラヴェルは世紀末の「現実主義者」のなかでは特別なケースに当たる。彼は垢抜けた都会人で、エジソンのシリンダーを背負って山腹を歩き回るような気質ではなかった。しかし、その短くも輝かしい活動期間のなかで、かなり多くの種類の民俗的素材—スペイン、バスク、コルシカ、ギリシア、ヘブライ、ジャワ、日本などさまざま—を用いた。ラヴェルもまたフォノグラフを聴いており、フレージング、テクスチュア、拍の微妙な細部に敏感だった。類い稀な感情移入の力を持った道楽者の紳士だったラヴェルは、巷の一介の人間として一日を過ごし、それからその経験を屋根裏の自室で再構成することができた。
アレックス・ロス著/柿沼敏江訳「20世紀を語る音楽1」(みすず書房)P88-89

経験、体験がものをいうのだが、それ以前に体験そのものを表現できるセンス、それこそが天才を天才とする。モーリス・ラヴェルこそは近現代においてその代名詞たる存在のひとりだったのだろうと思う。

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第4番変ロ長調作品53(1931)
ブリテン:ディヴァージョンズ作品21(1940)
リヒャルト・シュトラウス:家庭交響曲余録作品73(1924-25)
コルンゴルト:左手のためのピアノ協奏曲嬰ハ調作品17(1923)

ヴィトゲンシュタインは当世の天才作曲家たちに委嘱しているが、中でもラヴェルの生み出した音楽は随一の出来だと思う。

ブリテン指揮ニュー・フィルハーモニア管 ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム(1964.12録音)ほか プレヴィン&ウィーン・フィルのR.シュトラウス「家庭交響曲」ほかを聴いて思ふ プレヴィン&ウィーン・フィルのR.シュトラウス「家庭交響曲」ほかを聴いて思ふ

・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲ニ長調M.82(1929-30)
ロベール・カサドシュ(ピアノ)
セルジュ・チェリビダッケ指揮ウィーン交響楽団(1952.10.30Live)

ウィーン・コンツェルトハウスでのライヴ録音。
当時41歳のチェリビダッケの指揮は、あくまでピアニスト引き立てつつ、垢抜けた(?)ラヴェルの管弦楽部を実に色彩豊かに表現する(モノラルの、決して良いとは言えない録音状態においても渾身の指揮であることが手に取るようにわかる)。

カサドシュは実に淡々と、余計な言い回しは排除して、ラヴェルの音楽を心静かに奏でる。何という高尚さ! 聴衆の喜ぶ姿が目に見えるようだ。
モーリス・ラヴェル生誕150年に乾杯!

ロジェ デュトワ指揮モントリオール響 ラヴェル 左手のためのピアノ協奏曲ほか(1982.6録音) フランソワ クリュイタンス指揮パリ音楽院管 ラヴェル 左手のための協奏曲ほか(1959.6&7録音) ヴィトゲンシュタイン&ワルター指揮コンセルトヘボウ管のラヴェル左手(1937.2Live)を聴いて思ふ ベロフ&アバドのラヴェル「左手のための協奏曲」(1987.11録音)を聴いて思ふ ベロフ&アバドのラヴェル「左手のための協奏曲」(1987.11録音)を聴いて思ふ ツィマーマン&ブーレーズのラヴェル左手のための協奏曲(1996.7録音)を聴いて思ふ ツィマーマン&ブーレーズのラヴェル左手のための協奏曲(1996.7録音)を聴いて思ふ

2 COMMENTS

タカオカタクヤ

へえーっ、こんなある種〝夢の顔合わせ”が、実現していたんですね。カサドジュさんと申しますと、モノーラルながらCBSにラヴェルのピアノ・ソロ曲全集と言う名盤を、遺しておいでです。それに、〝クラシック音楽指揮界の孤高の一匹狼”こと、チェリ様が、絡む‥。殆んどの愛好家が、この盤をCDプレーヤーのトレイに乗せたくなるのでは?  LP‥日本コロムビアのOP規格‥でしたけれど、ベネデッティ・ミケランジェリとこの指揮者との、ベートーヴェン〝皇帝”を、一時期面白がって耳を傾けていたのを、思い出しました(笑)。それでは。

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岡本 浩和

>タカオカタクヤ様
ミケランジェリとチェリはラヴェルのもう一つの協奏曲を演ってましたよね。昔、クラシカ・ジャパンで観て、二人から放たれるオーラに感激してしまいました。
「皇帝」は未聴です。さぞかし名演なんでしょうかね??

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