クナッパーツブッシュ指揮ケルン放送響 ブルックナー 交響曲第7番ホ長調(改訂版)(1963.5.10Live)

ハンス・クナッパーツブッシュ指揮のブルックナーの第7交響曲。
高校生の頃、吉田秀和さんの文章を読んだのがきっかけで、とにかく聴いてみたいと思ったものの、確か当時はレコードがリリースされていなかったのではなかろうか。ましてその後も海賊盤まで高額払って手に入れる趣味はなかったので、正規盤が発売されるまで僕は聴いていなかった。
(その頃はすでにクナッパーツブッシュの第8交響曲に打ちのめされていたから「わからなかった」という吉田さんの言葉に逆に興味を持ったのだ)

そんなわけで、その年(1954年)の7月ザルツブルクの音楽祭に行った私は、ヴィーン・フィルの演奏会で、クナッパーツブッシュがブルックナーの『第7交響曲』をやるのを、はじめてきいたのだった。それから、バイロイトにまわった私は、ここでも、彼の指揮で『パルジファル』をきいた。
ブルックナーのことは、正直いって、私はわからなかった。あの荘重なアダージョの途中で眠ってしまった私は、目がさめてもまだその音楽が鳴っているのにすっかり恐れ入ってしまった。それにつづくスケルツォでも、単純なリズムの音型が無限に反復されるのに閉口した。要するにえらく単純なものが、やたらこみ入ったものとして、提出される音楽という印象をもったにつきる。あの大指揮をもってしてもわからなかった。バカである。
クナッパーツブッシュの指揮姿もまことに変わっていて、この比較的小柄な老人は指揮台に立って、片手は台にめぐらした欄干につかまったまま、もう一方の指揮棒をもった片腕も最小限にしか動かさず、ときどきうんと気合をこめて前につき出すと、例のブルックナーのあのホルンだとかチューバだとかのファンファーレが湧然として咆哮しだすという具合だった。およそ、あんなに動かない指揮、腕というより腹でやってるみたいな指揮は、あとにもさきにも、ほかにみたことがない。テンポも思いきり、ゆっくりしたものだった。だが、弦の音などいいようもなく厚味があって、しかも柔軟だったような気がする。

「吉田秀和全集5 指揮者について」(白水社)P102

「わからなかった」というものの(「バカである」という自戒の言葉が潔い)、クナッパーツブッシュの指揮姿を克明に記憶されていることに僕は感動した。そして、クナッパーツブッシュが意外にも小柄であったことに驚いた。

いよいよクナッパーツブッシュの第7交響曲がオルフェオから発売されたとき僕は狂喜した。そして、その録音を繰り返し聴いた。最晩年のケルン放送交響楽団との実況録音。改訂版によるこの演奏は状態も良く、本当に感動的な、紛れもなくクナッパーツブッシュのブルックナーだった。

・ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(改訂版)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ケルン放送交響楽団(1963.5.10Live)

そのすべてが巨匠のブルックナーであり、威風堂々、悠揚たる造形に言葉がない。おそらく指揮者は椅子に座り、ほとんど指揮棒を動かさない状態だったのだろうと想像する。そして、時折椅子から立ち上がり、金管群に指示を出し、例の如くの(特別な)咆哮が生まれていたのだろう。前半2楽章はもちろん絶品! そしてまた、晩年のクナッパーツブッシュらしいテンポでのスケルツォの素晴らしさ。
たった今創造されたかのような錯覚を起こすほどの生々しさに感無量。
ふと思った。マタチッチがチェコ・フィルと録音したスプラフォン盤はクナッパーツブッシュの解釈を参考にしたものではないのかと。

こう書くと、《重箱の隅をつついているようなあら捜し》と思う方もいられようが、実は、こういうところがブルックナーの演奏のroutine—常套手段となっていたものの最も特徴的な点の一つなのである。楽想の単一のフレーズに属する音たちが、たとえ二分音符なり四分音符なりで揃えられていても、それらを重ねて演奏する時に、そのテンポがしだいにずれてくる—というか、延びてくるというか。そういうふうにやると、奇妙なことに、いわゆるブルックナーらしい音楽に化けてくるのである。
フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ。こういったブルックナー演奏のうえで規範的な大指揮者たちの演奏には、そういう個所が続出する。

「ブルックナーのシンフォニー」
「吉田秀和全集2 主題と変奏」(白水社)P410-411

昭和44年(1969年)になってようやくブルックナーをぽつぽつ勉強し出したという吉田さんは、ついに(いろいろな問題もあると前置きし)「実におもしろい」と書く。
アントン・ブルックナー、128回目の命日に。

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