Steve Hackett “Please Don’t Touch” (1978) (2005 Remaster Version)

出会いはすべて必然だという。
出会った人・事・モノ、すべてをいかに生かすか。それを「好生の徳」という。

1977年の夏に超越瞑想を受けたとき、瞑想の最中にリッチー・ヘヴンスが唄う声を聴いた。そのメロディにたちまち気分が高揚したわたしの頭に、すぐさま歌詞が降ってきた。まさに超越の瞬間だ。慌ててリッチーに電話をかけ、曲の話を伝えた。彼は分かる分かるとすぐに合点してくれ、しかもいい曲じゃないかと言ってくれた。
スティーヴ・ハケット/上西園誠訳「スティーヴ・ハケット自伝 ジェネシス・イン・マイ・ベッド」(シンコーミュージック・エンタテイメント)P194

大きな転機の一つである。
自信が確信になり、ハケットの心の中で「遠慮」という文字が少しずつ消えていった時期だ。
彼が言うその曲はおそらく「イカルス・アセンディング」だろう。

バンドとの関係がぎくしゃくし始めたのは1976年のツアー中のある出来事からだった。クリサリス(アメリカのレコード会社)は、わたしのソロがちょうど発売となり売れ行きがよかったことでさらにプロモーションに力を入れようとしていた。バンドのサウンドチェック中のわたしを撮影してもいいという了承は取っていたにもかかわらず、怒ったマイクはベースを放り投げた。その日、あとからマイクとトニーに呼び出され、ジェネシスのメンバーでいる限りはもうソロ・プロジェクトはやってほしくないと言われた。わたしは唖然としてしまった。マイクは『ヴォヤージ』のレコーディングに賛成していたし、実際に一緒に作業をしてくれたからだ。バンド内の風向きが変わったことは心配だったが、バンドは順風満帆だったからわたしは刃向かわなかった。それに時間が経てばまた協力的になってくれるだろうという気持ちだった。
~同上書P195-196

後にジェネシスのメンバーは各々ソロ・プロジェクトを持ち、それぞれがヒットを放つような状況になるにもかかわらず、スティーヴのときは「反対」したのである。おそらく妬みや羨みや、そういうものが(ピーターが脱退した中で)他のメンバーに錯綜していたのだろうと思う。いわば若気の至りである。
スティーヴ・ハケットはついにバンドを辞める決断をする。
自分がやりたいことを選択したのだ。

ジェネシスを辞めたとき、バンドでは使えなかったであろうアイデアがすでにたくさんあった。自分の力を試してみる必要がある。アイデアが主張している。この世に出さなくてはならない。手をつけていないアイデアは、まるでまだ生まれていない子供のような気がしていた。時間がかかる大変な作業になることは分かっていたが、行動を起こして、ずっとやりたかったアルバム作りにできるだけ早くとりかかるのが最善の策だ。
~同上書P200

そうしてでき上ったソロ第2弾は実に素敵な、ハケット渾身のアルバムだった。
アルバム「プリーズ・ドント・タッチ」。
40年前、アナログ盤を購入し、僕は日夜繰り返し聴いた。やはり、リッチー・ヘヴンスの歌があまりに素晴らしかった。
(1969年のウッドストック・フェスティヴァルでのリッチー・ヘヴンス)

アールズ・コートではリッチー・ヘヴンスがサポートを務めてくれた。わたしは彼の楽屋に行き、信じられないような歌唱力にどれほど感動したかを伝えた。1970年のワイト島フェスティヴァルで雷光が荒れ狂う中、嵐をつんざく彼の超人的な歌声を聴いたことを忘れたことはない。わたしにとっては神のような声だった。
~同上書P193

スティーヴがリッチーへの思いを語る上記はジェネシスの『静寂の嵐』ツアー中の出来事である。彼はリッチーの神の声に惚れ込んでいた。

Genesis “A Trick of the Tail” (1976) / “Wind & Wuthering” (1977)

リッチー・ヘヴンスの声、そして彼の素晴らしく前向きな姿勢に心を奪われた。彼と仕事できるなんてとんでもなくスリリングなことだ。なんでも唄えるし、しかもそれはまるで彼が生涯唄ってきたようにさえ聴こえる。彼が唄えばすべての言葉が嘘偽りのないものになる。まさしくシンガー界の巨人だ。「イカルス・アセンディング」のアウトロでのヴォーカルは、フェニックスの最後の飛翔のように思えた。神の如き彼の声をわたしは愛してやまない。
~同上書P202

40年前、FM放送の何かの番組でプログレ特集が組まれたとき、「ザ・ヴォイス・オブ・ネカム」「イカルス・アセンディング」を耳にした僕は即座に虜になった(僕は即レコード店に走った。それは、忘れもしない、当時池袋にあったディスクポート西武だった)。

ヴォーカルのデモは自宅で録った。「アー」と唄っている声をループさせ、コンソール上で24の音程の声を再生できるようにした。これが「ザ・ヴォイス・オブ・ネカム」で聴かれる声だ。
~同上書P201

アルバムに収録された楽曲はすべてが魅力的だ。
リッチー・ヘヴンスがヴォーカルをとる2曲(「ハウ・キャン・アイ?」「イカルス・アセンディング」)をクライマックスとし、3部作(ランディ・クロフォードをフィーチャーした「ホウピング・ラヴ・ウィル・ラスト」からインスト作「ランド・オブ・ア・サウザンド・オータムズ」「プリーズ・ドント・タッチ」)のあまりの素晴らしさ(2005 Remaster Versionに収録されたライヴ・バージョンのテンションと集中力に度肝を抜かれる)

・Steve Hackett:Please Don’t Touch (1978) (2005 Remaster Version)

Personnel
Steve Hackett (keyboards, Mellotron, electric guitars, acoustic guitars, Roland GR-500 guitar synthesizer, percussion, loops, effects, bells, backing vocals, vocals)
John Acock (keyboards)
John Hackett (keyboards, flute, piccolo, bass pedals)
David LeBolt (keyboards)
Tom Fowler (electric bass)
Phil Ehart (drums, percussion)
Chester Thompson (drums, percussion)
James Bradley (percussion)
Richie Havens (lead vocals, percussion)
Hugh Malloy (cello)
Graham Smith (violin)
Steve Walsh (lead vocals)
Guest singers
Randy Crawford (lead vocals)
Maria Bonvino (guest female soprano)
Dale Newman (guest vocals)
Dan Owen (guest vocals)
John Perry (lead vocals on “Narnia”)

ロック史に燦然と輝く隠れた名盤。
半世紀近く経た今聴いても新しい、温故知新的アルバムである。

アメリカでのレコーディングは刺激的だったが同時に時間的にも精神的にも濃密で、イギリスへ戻ったわたしは胃潰瘍を患い、クリスマス・イヴの日に病院に運ばれてしまった。一休みする必要があった。
~同上書P203

いかに彼が全身全霊のエネルギーを注いだものかがわかる。
なお、ジャケットは前妻キム・プーアによるもの。

トスカニーニ指揮NBC響 レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」(1951.12.17録音)ほか Peter Gabriel i/o (Dark-Side Mix) (2023) The Rolling Stones “Out Of Our Heads” (UK Version) (1965) セゴビア J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004から第5曲「シャコンヌ」(アンドレス・セゴビア編曲)(1947録音) Steve Hackett:The Unauthorised Biography Steve Hackett:The Unauthorised Biography Steve Hackett再発見! Steve Hackett再発見!

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む