
どの時期のデイビス・バンドを最も好むかは、リスナー一人ひとりの感性および価値観次第である。いずれにせよ、マイルス・デイビスほど短期間で繰り返し変化を遂げながら時代を率先したミュージシャンは稀であることは否定できないだろう。デイビスは自分に対し、次のように振り返った—「俺は常に変わらなければならない。それは、祟りのようなものだ」、と。
~マイク・モラスキー「ピアノから聴くマイルス・デイビス—モダンジャズのリズ卯セクション」(岩波新書)P201-202
世界のすべては個性という箱の中にある。
しかし、ふたを開け、その中に光を当てられるなら、実は「同じもの」が入っていたことがわかる。一流の音楽家は、また芸術家は常に進化することを怖れない。なにもそれはマイルス・デイヴィスに限ったことではない。
世界が時々刻々と変化する中で、人の意識も変わらねばならない。
それが自然というものだ。
しかし、多くの人は変化を怖れる。
現状維持をモットーとする。
それは、大きな間違いだ。
デイビス・クインテットの原点は、レッド・ガーランドが参加した時期(あるいはその萌芽はアーマッド・ジャマル時代)だという。原点とは、主題のようなものであり、そしてバンドの変遷は、大きく変わろうが小さな変化であろうが、変奏のようなものだ。マイルス・デイヴィスの根源はおそらく変わっていない。「変わらなければならない」という思想こそが、マイルスの変わらない原点なのである。その意味で、その時代を共に歩んだガーランドの存在は大きい。
デイビスがミュートを使うとき、彼のトランペットサウンドは人間の声を彷彿させ、まるでリスナーの耳元で囁いているかのような親密感が伝わってくるが、そのサウンドもデイビス・クインテットの大きな魅力のひとつである。さらに、デイビスはソロの初めから最後まで〈間〉を多めにあけながら音数を最小限に抑えているのに、情熱もひしひし伝わってくる。言い換えれば、デイビスのトランペットサウンドは、ビバップの情熱とクールジャズの控えめさを両方表している。
~同上書P47-48
日本在住の米国人モラスキー氏は、マイルス・バンドの4人のピアニストからみた演奏の変遷、遍歴を見事にとらえ、分析する。
ピアノは旋律楽器だが、同時にリズム・セクションの要でもあり、実に面白く読ませていただいた。
マイルスのCBSのデビュー作たる”’Round About Midnight”の鮮烈な響きは黄金のメンバーの成せる業であるが、レッド・ガーランドのプレイがいかに貢献していたか、そのあたりが具に語られており、目から鱗。
・Miles Davis:’Round About Midnight (1957)
Personnel
Miles Davis (trumpet)
John Coltrane (tenor saxophone)
Red Garland (piano)
Paul Chambers (double bass)
Philly Joe Jones (drums)
アルバム全体が音楽の喜びに溢れる。
モラスキーさんは、ガーランドのグルーヴ感、あるいはコルトレーンの真面目さ、重さを指摘するが、それぞれのメンバーの新鮮でホットな音楽への取り組みが顕著で、どの楽曲もモダン・ジャズといわれるものの原点を示すよう。
何よりマイルスは自身のソロ以上にコルトレーンやガーランドのソロを前面に押し出さんと、自我を抑え、謙虚に、しかし変化を忘れず、メンバー間のインタープレイを楽しんでいる。特にコルトレーンとの絡みのパートは、聴いているこちらが嬉しくなるほど新鮮だ。
70年という時を忘れてしまうほどの「新しさ」。
変革という挑戦は、いつまでも永遠に色褪せない。


